用語解説コーナー 血が滾舞台用語辞典



楽屋(がくや)
2012.03.15 OA


「楽屋」という言葉は、比較的よく耳にする舞台用語だと思います。劇場やテレビ局などに備えられた出演者のための控え室ですね。
この「楽屋」、もともとは雅楽用語。雅楽の楽人(演奏者)が演奏するための場所が、舞台後方に幕で仕切られて設置されていて、その場所を『樂之屋』と呼んでいたそうです。それが縮まって、「楽屋」になった、と。
『樂之屋』は上記の通り演奏場所としての意味合いが強いのですが、楽器を置いておいたり舞人(舞を踊る人)が装束を着たりするのにも使っていました。それが後に、能楽などでは演奏を舞台上でするようになったため、主な用途が出演者の準備場所・休憩場所になっていったそうです。演奏場所という意味合いはなくなり、純粋に控え室を指す呼称になっていったわけですね。

現在の楽屋は、『化粧のための鏡台』『全身鏡』『(出番を確認するために舞台の様子が映されている)テレビモニター』などが主な設備でしょうか。小規模の水場がついている場合も多いです。鏡台の鏡の周囲は、照明が取り囲んでいるのが一般的です。しっかりと間違いのないメイクをするためには照明は重要ですからね。このあたりの設備がしっかりしている事が、単なる『関係者控え室』と『楽屋』との一番の違いと言えるのではないでしょうか。

小劇場では楽屋が一つか二つ程度というのが一般的ですが、大劇場では主役や座長が個別に使用するための小部屋と、その他の出演者のための大部屋が複数用意されています。
複数あるとなると、自然とそこに序列が発生するもので。室内における上座、下座といった席次マナーと同様、楽屋にも『格』が存在します。舞台やスタジオにより近い部屋が『格上』、大部屋・中部屋より個室が『格上』、個室同士ならより大きな個室が『格上』の出演者にあてがわれるとされています。
これがなかなかクセモノで、自分たちの劇団だけで芝居をしている時はせいぜい座長や先輩に気を遣う程度ですが、例えば客演の大御所俳優が二人出演するのに個室楽屋が一つしかなかったりする場合、制作部門の担当者は頭を抱えてしまいます。そうした場合、遠い楽屋であっても大きさを大きくしたり、普段は数人単位で使用する中部屋を個室として使っていただいたり、気持ちよく舞台に臨んでいただけるような工夫と配慮が必要になったりする事もあります。
しかしそれだけ気をつかって配置したにも関わらず、自分の個室楽屋にはほとんどいないで若手が集まる大部屋楽屋にばかり顔を出す大御所さんもいたりしますが・・・

また、ある程度長期間、同じ劇場で公演する時などは、各々の役者が『楽屋で快適に過ごすためのグッズ』を持ち込んだりします。ちょっとしたオーディオやDVDプレーヤーだったり、本や雑誌類だったり、リラックスグッズだったり、とにかく千差万別、十人十色。中には『ここに住む気か』と言いたくなるような調度品を持ち込む人もいるとか。
歌手のGacktさんが舞台「眠狂四郎無頼控」に主演した時は、自宅のトレーニングルームにある機材を持ち込み、毎日公演前に二時間のトレーニング。若手俳優も自由に機材を貸してもらえ、Gacktさんによるストレッチ指導もあったり、ちょっとしたジムと化していたという逸話も。ものすごくストイックな方ですね。

自分がリラックスして舞台に臨めるように楽屋を作り上げるのもある意味では大事なこと。しかし大部屋の場合などは特に、他の出演者・関係者の不快感を煽らないように注意しましょう。自分にとっては快適なお香や音楽もある人にとっては不快だったりして、それが原因で人間関係に不和が生じることも。あくまでも全員で舞台を作り上げる、そのために最適な「楽屋」にするように心がけたいですね。


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