用語解説コーナー 血が滾舞台用語辞典



きっかけ/Cue(きっかけ/きゅー)
2013.6.27 OA


「先輩の励ましを『きっかけ』にヤル気が出た」みたいに、何かの出来事や取り組みの原因となるある出来事を『きっかけ』と言いますよね?舞台でも演技、照明、音響など、あらゆる部門で様々な『きっかけ』があります。セリフを『きっかけ』に照明をつける、役者の登場を『きっかけ』に音楽を流す、とかね。たくさんの『きっかけ』のもとに、計算されて一つの舞台が出来あがっているわけです。

この『きっかけ』という言葉には、語源とされる説がいくつかありまして。

代表的なのは、動作の終わりを表す「きる(○○をやりきる、など)」という言葉と、動作の始まりを表す「かける(○○を食べかける、など)」という言葉を合成したものであるという説。つまり、ひとつのことが終わり、次の新しいことが始まるという意味で「きりかけ」という言葉が生まれ、それが変化して「きっかけ」になったという事ですね。

そして、もう一つの面白い説が、歌舞伎由来だという説。やっと舞台用語らしい話になりましたね。
歌舞伎独特の表現方法として、「見得を切る」というのがありますよね。そして、その「見得を切る」行為を合図として、次の場面に移るために裏方さんが「駆け出す」。シーンの終わりに見栄を「切り」、次のシーンを始めるために「駆ける」。これが「きりかけ」となり、変化して『きっかけ』になった、と。舞台人としては、こちらの説を採用したいところです。
実際、現在の演劇界で広く合図の事を『きっかけ』と呼ぶのは歌舞伎の世界で使われていたことに由来すると言いますし、こっちも十分、ありそうな話ではないでしょうか。

ついでにもう一つ。舞台はもちろんですが、映画やテレビ業界、音楽業界では、『きっかけ』の事を『キュー』とも言います。これは英語で書くと『cue』。ビリヤードで玉を突く道具「キュー」と同じスペル・・・ですが、まぁまったく関係ないそうで。この場合の『cue』はそのまま、「合図」「きっかけ」といった意味だそうです。

(ちなみに余談ですが、ビリヤードの方の「キュー」は、フランス語で尻尾を意味する「queue」が語源。「尻尾」という単語を話し言葉として「突き棒」の意味に用いたのに対して、英語風のスペルを当てたのが定着したらしいですよ)

『きっかけ』の意味の『cue』の語源は、ラテン語で「いつ」を表し、俳優に演技の始まりを指示していた言葉「quando(クアンド)」。この「quando」を、その頭文字から「Q」と略していたことから来ていると言われています。「Q」を後に動詞として用いようとした時に、「Q」では活用させられないので「cue」というスペルを当てたんだとか。

だから『キュー』を文字表記する際、今でも「Q」と書くんです。例えば照明のきっかけ一覧表の事を「Qシート」と書きます。これ、『cue』の略なら「C」だろ、と思いますよね?でもこれも元々が「quando」の「Q」から来ていたと知れば、納得。

ちなみに日本では、「本番で心臓がキュウ〜ンとなるから」という、笑い話のような珍説もあります。ま、さすがにこれは冗談の類だと思いますが、キューを出すタイミングというのは出す方も出される方も、それぐらい緊張する瞬間だということでしょうね。


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