血が滾対談第一弾 『生半可芝居のススメ』

※この対談は2012年12月25日に富山シティエフエムで放送された『スマイル!』という番組の内容をまとめたものです。


水上活動って、今はどちらでやってらっしゃるんですか?
宇野津時期や稽古内容にもよりますけど・・・呉羽の芸術創造センターだったり、最近は新庄というか問屋町のあたりにスペースを借りて稽古する事が多いですね。
水上公演が近くなってくるともちろん、その公演に向けての稽古だったり準備だったりをすると思うんですけど・・・そういうのがない普段って、なにをされてるんですか?
宇野津そうですね・・・まぁ発声とか滑舌練習とか、そういう基本も多少やりますし、あとは自分の脚本をテキストにして読み合わせ(脚本を音読して他の役者と合わせる稽古)とか。なんて言ってもラジオドラマの脚本だけでもう100本以上ありますから。
水上100本!そんなにですか!?
宇野津過去に書いたものを全部合わせるとそうなりますね。一本二時間の舞台脚本とかだと大変ですけど、比較的短く読めるテキストが大量にあるので、まぁそれを使って。
水上「そこの読み方はそうじゃないよ」みたいな?
宇野津まぁそうですね。
水上日々、勉強があるんですね。
宇野津勉強は大事ですよね。中でも一番大切な事は・・・それぞれの劇団できっとあると思うんですけど、ウチにはウチのやり方ってあるんですよね。血が滾の『型』というか。
水上『型』?
宇野津たとえば脚本の読み方一つとっても、「こういう書き方してある時はこういう風に読む」っていうある程度規則のようなものがあって。それに慣れておいてもらうというか。
水上血が滾流の様式美があるんですね!
宇野津そんな大層なものじゃないですけど(笑)でも、芝居の作り方とか考え方とかってホントいろいろありますから、「宇野津はどう考えているのか」を把握しておくとウチの芝居はすごく作りやすくなると思います。公演を控えての忙しい時期にそれを汲み取ろうとするんじゃなく、普段からそうした芝居を作る上での『共通言語』を増やしておいて、現場のコミュニケーションをスムーズにする・・・そのための「公演がない時期の稽古」かな、と。
水上技術論だけではないんですね。
宇野津技術は技術で大切なんですけどね・・・でもそんなの、例えばよその劇団の上手な方に客演をお願いすればそれで出来てしまったりする。そうじゃなくて、「やっぱり血が滾の芝居は血が滾の劇団員が合うよな」ってなるにはどうすればいいのか。「血が滾の劇団員」と「客演の役者さん」との違いはなんなのか。それって一つには、実際に芝居を作る時に陣頭で指揮を執ることになる僕の『やり方』や『考え方』、『作りたいもの』をどれだけ把握出来ているかじゃないかと思います。
水上すごいなぁ・・・私、今すごく納得してます。
宇野津ありがとうございます(笑)もちろん稽古の目的や効果がこれだけなわけじゃないですけど、まずは、ね。新人さんにとって一番大切なのは、技術を身につけることではなく、「血が滾の劇団員になる事」ですから。形式上入団するだけなら今、ウチは条件なんてほとんどつけないし、技術も求めてない。だからこそ、入っただけではまだ「血が滾の劇団員」としての最低条件をクリアした事にはならないんです。これは、役者でもスタッフでも同じ。
水上・・・宇野津さん。
宇野津は、はい・・・?
水上それが主宰って事なんですね!
宇野津え、お、どういう意味ですか?(笑)
水上なんていうのかな、「僕が立ち上げました!」とか「偉いです!」とかじゃなくて、方向性を明示するというか。「宇野津さんの劇団」って事なんですね。
宇野津あぁ・・・なんかそういう言い方していただくと僕がものすごい事をしてるみたいで大変恐縮ですが(笑)
水上いやいや、でもそういう事でしょう?私、正直『主宰』って何をする役目なのかよくわかってなかったと思うんですけど、腑に落ちました。主宰、大事。
宇野津まぁ僕の場合は演出もするし脚本も書くから、(主宰だけやってるよりも)余計に僕の『色』が影響するんだと思います。
水上へぇ〜。へぇ〜。今すごい感心してます(笑)
宇野津はい、伝わってきます(笑)
水上でもそれって、普段の稽古から気が抜けませんね。いや、そうじゃなかったら気を抜いていいわけじゃないですけど。
宇野津う〜ん、まぁ気を抜いてていいよとは言いませんが・・・ウチね、オーディションってないんですよ。
水上え、公演前も?
宇野津はい、全部僕が決めます。意見を聞く事は稀にありますが、異論を受け付ける事はないですね。劇団員が対象の場合、オーディションは基本的にいりません。普段から見てますから。
水上あ、普段の稽古の時に。
宇野津えぇ。どういう事が出来て、どういう事が出来ないか。誰と相性がいいか。もちろん稽古態度や挨拶なんかも含めて、見てますよね。言ってしまえば、どの稽古だって全部『オーディション』です(笑)
水上うわ、怖い!(笑)
宇野津怖くない怖くない(笑)逆に言えば、一発勝負じゃなくていいんです、劇団員は。いつだって僕がどういうものを求めているか質問できるし、何度だって挑戦して見てもらえる。「たまたま偶然出来た一回」とかに頼るんじゃなく、「よりによってその日は調子が悪かった」と嘆くんじゃなく、いつだってオーディションを受けられる。極端な話、稽古のない日だって相談されたら僕は付き合いますしね。そういうのが劇団員のメリットの一つでしょう?
水上なるほど、考え方次第ですね。
宇野津えぇ、考え方です。怖がってちゃもったいないですよ(笑)
水上でも、「普段見せてないけど、こういう事だって出来るんだ!」とか、そういうオーディションでの爆発力みたいなものって見たくなったりしません?
宇野津えっとね、まず言いたいのは「なぜそれを普段見せないんだ」と(笑)見せてくださいよ、普段の稽古で。
水上うぅ、そうですね。そうです。でもほら、気合い入った時に発揮される力ってあるじゃないですか。
宇野津ありますし、魅力的ですね。でもそういう人って往々にして、『二日目芝居』になったりしちゃうんですよね。
水上『二日目芝居』?
宇野津本番初日は気合い入ってたのに、二日目にダレるという事が役者さんには多いので、それを戒める警句なんですけど。お芝居って生のモノですから、一期一会、そのすべてを大事にしなきゃいけない。語弊を恐れずにちょっと極端な言い方をすると、例えば「三回やって、どれも80点の役者」と「三回中二回は40点だけど、たまに100点取る役者」がいたとして・・・映像なら後者を使っていいんです。失敗した二回は放送しなきゃいいんですから。でも舞台だったら、80点の役者を使う。80点の安定感を身につけた役者に、他の役者とのアンサンブルや演出で残り20点、あるいはそれ以上の『爆発力』を出せるようにしていく・・・それが舞台のキャスティングの一つの考え方かな、と思ったり。
水上確かに、毎回お客さんはその回しか観られないわけですもんね。
宇野津基本的には。たまに複数回観てくださるありがたいお客様もいらっしゃいますけど、ほとんどの方は一回きりです。40点見せたら、それでその人が楽しめなかったら、リトライはないんです。「他はよかったんだよ」はなんの言い訳にもならない。まぁちょっと話が逸れましたけど・・・オーディションで見せる『爆発力』って魅力だけど、役者にはそういうの必要だけど、そんなのはコントロールできなきゃその人の『実力』ではない。まずは、地に足のついた芝居が出来ることだと思います。それにね・・・
水上それに・・・?
宇野津結局のところ、そういうのも普段の稽古でわかっちゃったりしますよ(笑)いつもコミュニケーションを取って、「この人には何が合うか」「何が得意か」「何が苦手か」って観察してる劇団員が、オーディションでだけ本当に予想外のものを持ってくるケースなんてあまりないと思います。爆発したとしても、「この人はきっとそういう場では爆発する」って事はすでにわかってるから、それも予想の範疇です。
水上・・・私、こうしてお話ししてるのが怖くなってきました(笑)
宇野津ちょ、普段そんな気合い入れて観察してませんから、普通に付き合ってください(笑)







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