水上 | 宇野津さんの四つの仕事(前回参照/主宰・演出・脚本・俳優のこと)。どれも大変だと思うんですけど、まず脚本書くのって大変ですよね。何か気をつけてらっしゃる事とかありますか? |
宇野津 | えっと、それは舞台ですか?ラジオ? |
水上 | あ、やっぱり違いますか。 |
宇野津 | タギラジ!でやってるラジオドラマも、舞台の脚本とはちょっと違いますもんね。 |
水上 | それは「見える」「見えない」ってトコですか? |
宇野津 | それは大きいです。「視覚的な面白さをどう考えるか」は大事。まったく見えない前提、音だけで伝える話、となると、やっぱりそこは頭に入れて書かなきゃいけない。 |
水上 | 舞台だったら役者さんが立ってて沈黙してる、ってシーンでも、ラジオだと音がないからワケがわからなくなる。 |
宇野津 | そうそう。まぁラジオドラマで沈黙シーンを入れちゃダメとか、そういう事じゃないんですけど。入れるなら入れ方は考えた方がいいよ、って事です。 |
水上 | 難しいですね・・・視覚的な要素がないのは・・・ |
宇野津 | あ、それはちょっと違うかな? |
水上 | え? |
宇野津 | 「視覚的要素がない」んじゃないんです、多分。なんて言うかな、「視覚的要素を耳から伝える」って事であって。 |
水上 | え、え? |
宇野津 | 理屈はそんな難しい事じゃないんですけど・・・ラジオドラマを聞いてたって、視覚的情報は必ず頭の中にあると思うんです。想像、しますよね? |
水上 | あぁ、はい、しますします。 |
宇野津 | むしろ想像が働かないラジオドラマなんてつまらない。映像よりは舞台、舞台よりはラジオドラマの方が「想像力のメディア」じゃないかと思いますよ。もちろん、それぞれの媒体にもいろんな手法ありますけど。 |
水上 | そっか、「目で見えない」という事と「頭で見えない」って事とは違いますもんね。 |
宇野津 | そうそう。普段視覚情報を司っている「目」という端末を介さずに、別の端末から入れた情報で視覚情報を作るのがラジオドラマの面白さなんです。簡単に言ってしまえば、いかに想像させるか。そしてその想像が聞いてる人たちそれぞれで違うのも面白い。舞台や映像なら役者さんのビジュアルも動きも誰が見たってまぁ同じですけど、ラジオドラマだけは違う。違っていい。それぞれが思う「カッコイイ瞬間」「面白い瞬間」ってのを頭の中で創るんです。誰とも完全な共有は出来ないけど、一番自由な媒体の一つじゃないかと思います。 |
水上 | 聞いてる人の聞き方というか、想像する力も試されますね。 |
宇野津 | まぁそうですね。少なくとも、想像しようと思って聞いた方が絶対面白いですよ。情報が足りてないトコを補うのが楽しいんです。舞台もそういう見せ方、面白さはありますけど、ラジオドラマはそういう要素がより強いと思います。 |
水上 | すごいですね、そんな風に書き分けていらっしゃるなんて。 |
宇野津 | とんでもない!全然書き分けられてなんかないですよ(笑) |
水上 | えぇ!?そんなそんな。 |
宇野津 | いや、ホントに。ただでさえ難しい事ですし、どうしても締切に追われると突き詰めて書いていくのは出来なくなる。でもせめて考える事、どうすればいいかと悩む事はやめない。そう思ってるだけで、現状なんて全然ですよ。 |
水上 | それだけでも十分すごいと思いますけど・・・でも確かに締切、大変ですよね。 |
宇野津 | 大変です(笑)今書いてるのはだいたい一本15分〜25分程度のものですけど、それを一本書くのに何日かけてるかって話ですよ・・・ |
水上 | 書き直したり、ちょっと違うんじゃないかって思ったり。 |
宇野津 | ありますあります。「ちょっと違うんじゃないか」はものすごいありますね。「宇野津さん、考えすぎですよ」って浦本あたりにはよく言われます(笑) |
水上 | 宇野津さんを諌めるのは浦本さんなんですね(笑)「ちょっと違うんじゃないか」って思った時は、どうされるんですか?やっぱり書き直していく? |
宇野津 | えっと、脚本書く前には「プロット」っていって、なんていうのかな、脚本の設計図みたいなモノなんですけど、それを書くんです。
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水上 | へぇ、「プロット」? |
宇野津 | あらすじのすごく詳しいの、って言えばイメージ出来ますか?このシーンでは誰が出てきて誰がいなくて、最低限この情報は提示しなきゃならなくて、このキャラはこんな設定でこういう人間関係で、ここにこういう伏線を張って・・・みたいなメモです。 |
水上 | なんとなくわかります。 |
宇野津 | 「ちょっと違うんじゃないか」って思うのは、ほとんどそのプロット作成の段階です。元々、プロットには脚本作成前に矛盾点やエラーを洗い出す意味もありますから。 |
水上 | そっか。じゃあその時はまだ、台本は・・・ |
宇野津 | 書いてません。僕、プロットが完成するまでは一文字も書かないって決めてるので。 |
水上 | へぇ! |
宇野津 | 設計図が完成する前に家建て始める大工さんなんていないでしょ?(笑) |
水上 | なるほど!確かに!(笑) |
宇野津 | もちろん人によりますけど、僕の場合ここをおろそかにすると失敗する確率が高いんです。だからここをがんばって、実際に脚本を書く段階では迷いなく一気に書けるように準備してから取りかかる。 |
水上 | へぇ・・・じゃあそこまでが長いんですか? |
宇野津 | 長いです、すごい長いです。たとえば締切までに一ヶ月あったとして、プロットに25日は使います。 |
水上 | えぇ、そんなに!? |
宇野津 | 僕は、ですけどね。これも人によりますけど。 |
水上 | そうかぁ。それだけまとまったものがあると、後はそこに乗っかっていくだけ、みたいな感じなんですかね。 |
宇野津 | えぇ。なんか書いてる途中で止まったり考え込んだりすると・・・なんでしょうね、文章に勢いがなくなるというか。 |
水上 | あぁ、なるほど。 |
宇野津 | 迷いながら書くと、選ぶ言葉も面白くないんですよね。そういう精神状態って、全部出ちゃう気がする。言葉がそういう方向に寄っていっちゃう。だから、迷いなく「これは面白い!」って思える状態にしておいて、一気に書く。それが、面白いものを書く時のコツの一つじゃないかと、僕は思ってます。 |
水上 | そうですかぁ。「自信」ですね。そこに「自信」がないといけない。でもそれ、劇団員の皆さんもヒヤヒヤしませんか?だってさっきの例で言うと、締切まで一週間とかになって「どうです?」って聞いてもその時はまだ・・・ |
宇野津 | 一文字も書いてない(笑) |
水上 | 「えぇぇぇぇ!?」ってなりません?(笑) |
宇野津 | なりますなります(笑)ホント、申し訳ない。 |
水上 | そんな風に「宇野津さ〜ん、書けました?」ってつっついてくる人っているんですか? |
宇野津 | あ〜・・・まぁ、劇団内でも僕をそういう風につっついていい人ってのは決まってまして(笑) |
水上 | 決まってるんですか(笑) |
宇野津 | だいたい浦本ですね。 |
水上 | やっぱり浦本さん(笑) |
宇野津 | まぁ彼女には脚本の相談にも乗ってもらうから、ってのもありますけど。それ以外の人が不用意につっつくと、プレッシャーになってかえって書けなくなったり、不機嫌になったり・・・ |
水上 | 締切前は繊細になりますよね。ナイーブになりますよね。 |
宇野津 | ま・・・早く書けよ、って話なんですけどね(笑) |